化学者のための備忘録

化学系研究室で直面した様々な問題に関する備忘録をまとめました。

計算化学備忘録 #1 –計算化学とは–

1. 計算化学とは

 計算化学とは、量子化学や理論化学の問題をコンピュータを活用しながら方程式を解き、数値解を得ることを目的とした理論化学の一分野です。ここで言う方程式とはシュレディンガー方程式を近似した方程式であり、現在主流となっている計算手法はその近似方程式の違いによって大きく2つに分けられます

 計算化学を上手に活用することで、分子の遷移状態や、反応経路エネルギーNMRやIRのスペクトルなどといった理論的パラメータを得ることができます。

 私がもっぱら専門としているのはこの中でも反応メカニズム解析であり、本ブログでは反応メカニズム解析にフィーチャーして記事を書いていく予定です。

反応メカニズム解析によってできること

 

2. 計算化学における注意

 計算化学は便利ですが、計算結果が必ず現実の系を正しく反映しているとは限らないことに注意が必要です。計算的には進行しうる活性化エネルギーの反応でも、実際には進行しないことはよくあります。最も信頼できるデータは実験データであり、計算化学は一般的にそれらを支持するものであるという理解が誠実なのではないかと思います。

 しかし、計算化学でないと見ることのできない反応の遷移状態や、実験的に確認することの難しいパラメータなど、計算化学の得意な場面は多く存在します。計算結果が何を意味し、どこまでの信頼性があり、どういった場面で活用可能なのかをよく吟味することが計算化学を用いる上では非常に重要と言えるでしょう。

 

3. Gaussianとは

 さて、冒頭述べましたように計算化学ではシュレディンガー方程式を近似した方程式を解くことで数値解を得ています。というのも、シュレディンガー方程式は水素原子や水素分子イオンといった非常に簡単な分子以外は解くことのできない方程式であるため、なんらかの近似処理をしてあげる必要があるためです。

 Gaussianとはそうやって近似された方程式を分子軌道法密度汎関数を用いて解析する世界で最も研究者に使われている計算化学プログラムです。

Gaussian | HPCシステムズ・計算化学ソリューション, https://www.hpc.co.jp/chem/software/gaussian/ より



 Gaussianに計算をしてもらうためにはInputファイル(拡張子.com または.gjf )と呼ばれるファイルを作成する必要があります。このInputファイルの作り方は今後まとめます。このInputファイルの指示に従って、Gaussianは入力された分子に関する計算を行います。

 

4. 計算の進め方(反応メカニズム解析)

 以下では反応メカニズム解析における計算の進め方を概説いたします。反応メカニズム解析において、計算は"Opt→Scan→TSopt→IRC→Opt"の順に進みます。これらの細かい解説は次回行います。簡単に説明すると、

  • Opt:作成した構造の最適化
  • Scan:遷移状態を探索する目的で分子の結合長や結合角などを動かす
  • TSopt:遷移状態の構造最適化
  • IRC:遷移状態を挟む初期物質と生成物の方向にそれぞれ構造を変化させる

となります。

反応メカニズム解析の常法

 

参考文献

https://www2.itc.nagoya-u.ac.jp/pub/pdf/pdf/vol05_02/169_185kouza.pdf分子軌道法計算プログラム Gaussian 03 -その 1-